拒んでいるのは、技術か、変化そのものか
AIへの抵抗を「理解不足」で片付けると、何も進みません。拒まれている対象を分けて考えます。
目次
前回、AI活用の差は技術力ではなく、任せる範囲を決められるかどうかにあると書きました。ただ、そもそも使うこと自体に抵抗がある場合があります。
「AIは人を代替する」という受け止め
世界がAIによる生産性の向上に進むなかで、日本には「AIは人間を代替する脅威だ」という受け止めが根強く残っている、と指摘されてきました。
この抵抗を「理解不足」として扱うと、対策は「説明する」「研修する」になります。それで解けるなら、すでに解けているはずです。
別の見方をします。拒まれているのは、技術ではないかもしれません。
拒まれている対象を分けます

① 技術そのもの 精度が信用できない、間違えると困る
② 仕事が消えること 自分の役割がなくなる
③ ★ 評価の基準が変わること
①は、実際に試せば判断できます。②も、よく語られます。
③が、最も語られず、最も効いています。
評価の基準が変わる、とはどういうことか
長く働いてきた人は、自分が何で評価されてきたかを知っています。
速く正確に処理できる
過去の経緯を覚えている
社内の誰に聞けばいいか分かる
手を動かす量が多い
これらの一部は、AIが肩代わりできます。
肩代わりされた瞬間、その人がこれまで積んできた優位が、優位でなくなります。仕事が消えるわけではありません。消えるのは、その人が評価されてきた根拠のほうです。
前の連載で、似た構造を書きました。年長者が知識の宝庫だった時代が終わり、権威の根拠だった情報の非対称が消えた、という話です。AIは、その変化を加速させます。
この状況で抵抗するのは、合理的な反応です。理解が足りないのではなく、理解したうえで不利益を予期しています。
「勘と根性」は、何を守っているのか
AIを否定し、経験と根性に頼り続けることが、過重労働と競争力の低下を招いている、という指摘があります。
指摘としては正しいと思います。ただ、なぜそうなるのかの説明にはなっていません。
経験と勘は、その人が長い時間をかけて積んだものです。それを「非効率」と呼ばれれば、積み上げを否定されたように聞こえます。守っているのは効率の低い方法ではなく、自分の立場のほうです。
これは道徳や意識の問題ではなく、価値証明の失敗という経営課題だと考えています。
ALTEVOはこう考えています
抵抗を解こうとしないほうがよいと考えています。
説得しても、不利益の予期は消えません。消すには、不利益が実際に起きないことを示す必要があります。
私たちが設計の方針として置いているのは、次の順序です。
1 ★ その人が持っている判断を、先に記録する
AIに置き換える前に、何を持っているかを可視化する
2 その記録を、組織の資産として扱う
★ 残したこと自体が評価される状態をつくる
3 そのあとで、定型部分をAIに任せる
順序が逆だと、抵抗は必ず起きます。先にAIを入れて、後から「あなたの知識も記録しておいてください」と頼めば、自分を置き換えるための作業を自分でやれ、と言われているのと同じです。
デジタル温故知新という言い方をしていますが、中身はこの順序のことです。過去を否定せず、価値として確定してから、新しい道具を足す。
ただし、これは仮説です。
反証:順序を守っても、進まない場合があります
限界を書きます。記録を先に取るやり方は、時間がかかります。
競合がすでにAIで処理速度を上げている局面では、丁寧な順序を踏んでいる間に差が開きます。この場合、順序より速度を優先する判断が正しいことがあります。
もう1つ。記録を取ったからといって、評価されるとは限りません。「残したこと自体が評価される状態」をつくるのは、仕組みではなく人事の判断です。私たちが設計できる範囲の外にあります。
そして、抵抗の中身が②(仕事が消える)である場合、この順序は効きません。実際に業務量が減るなら、記録しても立場は戻りません。その場合に必要なのは、配置転換の計画であって、記録の設計ではありません。
次回
AIを使えるようになっても、作ったものの価値が伝わるとは限りません。
技術はあるのに名前が知られていない企業が、日本には数多くあります。
次回は、そこを扱います。技術があるのに名前が売れないのは、なぜか。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。